「空気はおもしろい」と知ってほしい。日本室内空気保健協会の加藤代表理事にインタビュー

2022.12.13 空気環境

「空気はおもしろい」と知ってほしい。日本室内空気保健協会の加藤代表理事にインタビュー

日本室内空気保健協会は2021年1月に設立された一般社団法人です。揮発性有機化合物、粉じん、カビ、ダニ、ウイルスといった室内空気の汚染物質が軽減され、誰もが安心安全な室内空間にいられる時代を創るために啓発活動やコンテスト開催、化学物質過敏症患者のサポートなどを行っています。

今回は協会設立の経緯や新たに設けた資格制度、コンテスト開催の目的などについて、加藤美奈子代表理事にお話を伺いました。

新型コロナウイルス蔓延を機に「室内空気」の改善啓発に特化

―本日はよろしくお願いします。まず、日本室内空気保健協会さまの活動内容や設立背景について教えてください。

室内空気質(IAQ:Indoor Air Quality)の改善に関する調査や研究、コンテストの開催、室内空気環境を良好に保つための専門的なアドバイスができる「空気環境アドバイザー」資格の認定、化学物質過敏症患者のサポートなどを行っています。

7年前からシックハウス症候群の啓発活動を行っていましたが、2020年からの新型コロナウイルス感染拡大を受けて、室内空気環境の改善啓発に特化した一般社団法人を立ち上げようと考えました。

室内空気質の測定などを行う「春日井環境アレルギー対策センター」も個人事業主として運営しているのですが、空気に対してアンテナを張っている全国の熱心な企業や大学、学生、そして一般の方をつなげる取り組みをしたくて日本室内空気保健協会を設立しました。


―加藤代表は看護師のご経験があると伺っています。他のメンバーにはどのような方がいらっしゃるのでしょうか。

理事と顧問を務めるのは、環境アレルギーの専門家やダニの専門家、元名城大学教授などです。情報・信頼性・ネットワークはピカイチといえるようなメンバーに協力いただいています。

産官学と市民をつなぐ室内環境改善コンテスト


(第一回IAQ改善コンテストの様子)

―室内空気質の改善コンテストについて詳しくご紹介ください。

「室内環境改善コンテスト~IAQ改善に着目して~」は誰もが安心・安全に過ごせる室内空気環境のアイデアを募集するものです。

建築設計、換気システム、塗料、漆喰、スマートフォンアプリ、住まい方や働き方の提案など、さまざまな角度から案を募っています。コンテストを通して産官学、そして子どもたちを含む市民をつなげたいと考えて開始しました。

2021年に「第1回IAQ(室内空気質)改善コンテスト」と題して開催した時は、ウイルス対策に特化した応募作品、二酸化炭素削減に特化した作品、シックハウス症候群に着目した作品など、空気環境改善に関する幅広いアイデアが集まりました。

第2回目はより「IAQ(室内空気質)」に着目していただけるよう、コンテスト名に「IAQ改善に着目して」と入れています。


―室内空気質の改善をテーマとして、子どもから大人まで参加できるコンテストなのですね。

そうですね。たとえば建築に興味のあるお子さんが空気質について学ぶことができれば、将来、体にいい建築物を作る手助けになるかもしれません。そうした教育の機会にもなると考えています。

コンテスト当日(9月29日)は、入賞者の決勝大会を行う白熱した内容です。11月10日のイベントは、子ども、主婦、学生、企業の入賞者がそれぞれの作品への思いを紹介する場となっています。子どもたちに関しては私がプレゼンテーション準備のサポートをします。


―実際にどのようなお子さんから応募があるのでしょうか?

たとえば2年連続で応募し、2回目の今年、最優秀賞をとった素晴らしい子がいます。中学一年生の男の子で、保護者の方の助けは借りず、主体的に楽しく参加してくれています。審査委員長にも「こんなものを発明できたら世の中が変わる」と言わせてしまうくらい、成長を見せてくれました。

市民が空気環境について学べる「空気環境アドバイザー」資格



―「空気環境アドバイザー」資格についても教えてください。

空気環境アドバイザーは、空気環境問題を理解し、室内空気環境を良好に保つための生活空間の過ごし方をアドバイスできる資格制度です。

これまで、建築業界とは違って、一般の方向けの空気環境改善に関するテキストがありませんでした。

私はもともとぜんそくを持つ子どもの親で、建築と空気の関わりなど知らない状態から少しずつ学んでいます。

その過程でシックハウス診断士になり、中部大学の非常勤講師として環境アレルギーの講師を務めるようになりましたが、土台としては一般の視点で物事をとらえているんです。そのため、専門家と一般の方の間にある知識の格差を埋めていきたいと思い、この資格制度を設けました。

先ほどご紹介したコンテストで「空気質改善」に対する概念が応募者によってさまざまだったとお話したように、主催者としてガイドラインをつくり、啓発する必要性を感じたのも理由です。


―テキストの内容を一部ご紹介いただけますでしょうか。

テキストは114ページで、意識して読む量を減らしています。最近は「窓の開け方」ひとつとっても工夫が要るとメディアでも取り上げられていますよね。こうした内容もイラストを交えてわかりやすく説明しています。

ちなみに日本では今のところ外気の空気質が正常範囲内ですが、海外には黄砂やPM2.5などで一年中大気が汚染されている国もあります。空気は世界中つながっていますから、「窓を開ければ必ずきれいな空気が入るわけではない」ということを知っていただきたいです。

ほかにはシックハウス症候群と感染症、花粉症、化学物質過敏症など病気に関する内容、建築物に関する空気環境保全上の法律、空気質を数値化する大切さ、そして住宅や店舗・オフィス、避難所での空気環境対策などについて解説しています。

空気環境アドバイザーとしての知識をつけるには、理科をあらためて学んでいただくことだと考えています。

まずは空気がきれいになるメカニズムを知って、シンプルな対策から

―空気環境アドバイザーの知識は日常生活でどのように役立つのでしょうか。

一般の方が学ぶものですので、空気がきれいになる基礎的なメカニズムを知っていただけるようにと考えています。

私は空気質の調査をよく行うのですが、安価なサーキュレーターを使って適切な空気の流れを作るだけでも、数値は変わります。もちろん高性能の空気清浄機を使うのも1つの方法ですが、必ず高価な家電製品を何台も買わなくてはいけないというわけではありません。

もちろん換気ができない地下スタジオや水族館など、場所によっては高性能の空気清浄機を使うことが有効ですが、一般の方がすぐにでも実践できる正しい空気環境の改善方法について、この資格を通して学んでいただけたらと思います。

化学物質過敏症患者をサポートし、協会会員とつなぐ活動も

―化学物質過敏症患者さんのサポート活動についても教えてください。

年に2回、アレルギーの専門医セミナーや、化学物質過敏症患者団体の講話会を開催しています。当事者の方がどのような思いで生活しているのかを共有し合う場です。

化学物質過敏症は世間一般にあまり知られていないですが、空気の汚染物質によって働ける場所が少ないため、経済的に厳しい状況にある患者さんが多くいらっしゃいます。そのため相談窓口を設ける、当協会の会員から募ったお金を助成金として患者会にお渡しするといったサポートを行っています。

また、会員にリターン品として、化学物質過敏症患者の方が空気のきれいな場所で運営している工房で作ったおいしいパンやコーヒーをお渡しする方法をとっています。

「目に見えないもの」におびえる子育てを減らしたい



―加藤代表は、室内空気環境について一般の方と同じ目線で学び始めたと伺いました。その原動力は何だったのでしょうか。

子ども2人がぜんそくを持っていて、医師からはずっと「ダニ掃除をきちんとしなさい」「布団を掃除しなさい」と言われ続けてきました。子どもはぜんそくの影響で風邪もこじらせやすかったので、点滴や吸入、入退院を繰り返し、1人は人工呼吸器をつける寸前まで容体が悪化したこともあったのです。

それらが5年間続き、ダニも含めて目に見えないものに対する恐怖心を抱くようになりました。だから目に見えないものにおびえるような子育てを減らし、丈夫でのびのび生活できる子どもが増えるといいなと感じたのがきっかけです。

空気はおもしろいし、ビジネスチャンスでもある


(右3名は、第一回IAQ改善コンテストのグランプリ賞受賞者団体)

―空気に対する世間の関心について、何か変化は感じていらっしゃいますか?

そうですね、ようやく変わってきたと感じています。コロナウイルスが蔓延する前は、たとえば花粉症の話をしても「耳鼻科に行けばなんとかなるでしょ?」という反応がほとんどでした。「化学物質は目に見えないし、シックハウス症候群にも興味がない」という方が多かったです。

しかし2020年以降、「ウイルス対策って意外と難しい」ということが世界中に認知されました。私どもはそれをある意味チャンスと考えて、ウイルスよりも小さな化学物質のリスクを啓発していますが、まずはウイルスについて話をすると、多くの方が聞く耳を持ってくれるようになりました。

私自身も40代から、徐々に蓄積された化学物質が原因のシックハウス症候群になりやすくなり、招かれるイベントやセミナーでは、会場の空気質をきれいにしていただいてから登場するようにしています。

こうした会場の運営者も、以前と比較するとサーキュレーターなどを積極的に活用してくれるようになりました。


―今後の目標や、注力したいことについてお聞かせください。

以前に比べたら増えてはいるものの、私の体感では空気に興味を持っている人がまだ少ないと感じています。

たとえば消毒に使われるアルコールは揮発性有機化合物という化学物質だということをご存知でしょうか。

消毒液であってもアルコールは大気中に排出されると、健康被害などの悪影響がある可能性があるものです。吸い込むと吐き気を催すなど体に悪影響を与える可能性があります。そのため、密室ではなく屋外で使用するといった配慮は大切です。

実際に、環境省が行なっている子どもの健康と環境に関する2022年の全国調査(エコチル調査)では、妊娠中の医療用消毒殺菌剤の使用回数が多いと、3歳児におけるアトピー性皮膚炎やぜんそくになる可能性が示唆されました。

できれば自覚症状が出る前に、化学物質の知識を含め「空気に関してみんなでもっと学ぼう」という動きを広めたいです。


―学びの動きを広めるには、どのようなアプローチが必要なのでしょうか。

10年ほどアレルギー啓発をしてきてわかったのは、上から目線ではなく、「この取り組みはおもしろくてかっこいい」「ビジネスチャンスがある」といったポジティブなイメージを推進するのが有効だということです。

室内空気質改善コンテストを開催しているのも、「空気は理科で、おもしろい」「今のうちに空気衛生を学ぼう」という意識をもっと広げたいからです。今後も一般市民の方の空気に対する関心・知識を底上げし、今回の取材のような機会も活用して発信していきたいと考えています。


―本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。