労働安全衛生法とは?企業が果たすべき責務と義務

労働安全衛生法とは?企業が果たすべき責務と義務

事業者には、従業員の安全と健康を守る義務や、快適な職場環境を整備する責務があります。それらを明文化したものが「労働安全衛生法」です。

事業者が押さえておくべき重要な法律ですが、時代に合わせて改正されるため、常に最新の情報を知っておく必要があります。

この記事では、近年行われた法改正に関してわかりやすく解説します。自社に関連のある項目や守るべき項目をしっかりと把握しましょう。

労働安全衛生法とは?

労働安全衛生法は「職場における労働者の安全と健康の確保」や「快適な職場環境の形成促進」を目的として、1972年に制定された法律です。

労働安全衛生法が制定される前は、高度経済成長による大規模工事や労働環境の変化から、労働災害による死者数が毎年6,000人を超えていました。

この状況を改善するべく労働省や専門家が中心となって法整備に取り組み、1972年に公布・施行されたのが「労働安全衛生法」です。

施行後、労働災害の件数は減少し、現在に至るまで時代に合わせた改正が行われています。


◇受動喫煙対策も事業者の努力義務に
2015年6月1日より、労働者の健康保持増進のため、職場の受動喫煙防止対策が必要になりました。

事業者は、室内又はこれに準ずる環境における労働者の受動喫煙(健康増進法(平成十四年法律第百三号)第二十八条第三号に規定する受動喫煙をいう。第七十一条第一項において同じ。)を防止するため、当該事業者及び事業場の実情に応じ適切な措置を講ずるよう努めるものとする。
引用:労働安全衛生法 | e-Gov法令検索


これはすべての事業者が対象となっており、健康増進法や労働契約法、職業安定法においても受動喫煙防止対策についての規定があります。

労働安全衛生法と労働基準法の違い



労働安全衛生法の中核的な内容は、もともと1947年に制定された「労働基準法」の第5章「安全及び衛生」に盛り込まれていました。

その後関連規則などは整備されていたものの、高度経済成長期に多くの労働災害死亡者が発生したことが契機となり、労働基準法から分離独立する形で1972年に「労働安全衛生法」が制定されたのです。

労働基準法では労働条件に関する事項が定められており、労働安全衛生法では労働者の安全と健康確保に関する事項や、職場環境に関する事項が定められています。

労働基準法 労働安全衛生法
目的 労働条件の最低基準を定め、労働者を保護すること 職場における労働者の安全と健康の確保、
快適な職場環境の形成促進
定める内容 労働条件に関する事項 安全衛生に関わる基準・体制に関する事項、
快適な職場環境形成に関する事項

労働安全衛生法の対象となる事業者

労働安全衛生法の対象となる「事業者」とは「事業を行う者で、労働者を使用するもの」と定められています。

そのため、事業を営んでいるほとんどの法人・個人事業主に対して労働安全衛生法が適用されるといえるでしょう。しかし一部適用除外になる場合もあります。


◇適用除外になる場合
「同居の親族のみを使用する事業又は事務所に使用される者」や「家事使用人」は、労働者に含まれませんので、たとえ事業を営んでいたとしても「事業者」には該当しません。

また船員は安全衛生法の適用を除外されており、国会職員、裁判所職員や防衛庁職員、国家公務員や地方公務員など、又は鉱山での事業は労働安全衛生法の一部の条文を除いて適用除外となることがあります。

労働安全衛生法施行令と労働安全衛生規則



労働安全衛生法と関係が深いものとして「労働安全衛生法施行令」と「労働安全衛生規則」がありますが、労働安全衛生法が「法律」であるのに対し、労働安全衛生法施行令は「政令」に、労働安全衛生規則は「省令」に該当します。

なお、法律、政令、省令には次のような違いがあります。

● 法律:国会で制定された決まり
● 政令:憲法・法律の規定を実施するために内閣が定める命令
● 省令:法律・政令を施行するために各省の大臣が発する命令

つまり、「労働安全衛生法」の規定内容を実行に移すため細かなルールを規定したものが、「労働安全衛生法施行令」「労働安全衛生規則」であるといえます。

労働安全衛生法に違反するとどうなる?

労働安全衛生法に違反すると「懲役」または「罰金」という刑事罰が科される可能性があります。どのような場合に刑事罰の対象となるのか、いくつかのケースを紹介します。

具体例 違反する条文 違反内容 罰則
労働者を雇い入れる際に、安全衛生教育を行わなかった場合 労働安全衛生法第59条第1項 安全衛生教育実施違反 50万円以下の罰金
クレーン運転など免許が必要な業務を、無資格者に行わせた場合 労働安全衛生法第61条第1項 無資格運転 6ヵ月以下の懲役または50万円以下の罰金
高圧室内作業などの危険作業を行なう際に、作業主任者を選任しなかった場合 労働安全衛生法第14条 作業主任者選任義務違反 6ヵ月以下の懲役または50万円以下の罰金
労働者に重度の健康障害を生じさせるおそれのあるものを、許可なく製造・輸入・譲渡・提供・使用した場合 労働安全衛生法第55条 製造等の禁止 3年以下の懲役または300万円以下の罰金

労働安全衛生法における事業者の責務や義務

事業者には、労働者の事故防止や健康確保のために措置を講じる義務があります。この義務を果たすために、事業者はどのようなことに注意する必要があるのでしょうか。ここではポイントとなる7項目を抜粋して解説します。


◇管理者の選任
事業者は労働安全衛生法第3章「安全衛生管理体制」にあるとおり、安全衛生管理の中心となる人物を選任しなくてはなりません。

したがって事業規模や業種に応じて安全管理者、衛生管理者、安全衛生推進者、産業医、作業主任者などを選任する必要があります。


◇安全委員会、衛生委員会、安全衛生委員会の設置
労働安全衛生法第3章「安全衛生管理体制」では、常時使用する労働者の数が50人以上(業種によっては100人以上)を有する事業場において、「安全委員会」の設置が義務付けられています。また、常時使用する労働者の数が50人以上を有する事業場において「衛生委員会」を設置しなければなりません。そして「安全委員会」「衛生委員会」の両方を設置しなければならない事業場においては、それぞれの委員会の設置に代えて「安全衛生委員会」を設置することができます。


◇労働災害の防止措置
労働安全衛生法第4章「労働者の危険又は健康障害を防止するための措置」では、事業者は労働者が設備や作業などによって危険に晒されたり、病気や怪我をしたりすることがないよう、事前に物的な危険を防止するための措置、作業方法から生ずる危険を防止するための措置、作業場所から生ずる危険を防止するための措置等の防止措置を講じなければならないと定められています。


◇リスクアセスメントの実施
2006年の法改正により、労働安全衛生法第28条の2第1項に危険性又は有害性等の調査の実施と調査の結果に基づき必要な措置を講ずるよう努めることが定められました。

これは製造業・建設業などの事業者に対して、リスクアセスメントやそれに関連した措置を実施する努力義務があるとするものです。


◇定期自主検査の実施
労働安全衛生法第45条では、事業者は特定の機械等の定期的な自主検査を行ない、その結果を記録しておかなければならないと定められています。

◇労働者の健康保持
労働安全衛生法第7章では、事業者には「作業環境測定」「健康診断」や「病者の就業禁止」などが義務づけられています。


◇快適な職場環境の形成
労働安全衛生法第7章の2に努力義務として明記されているのが、「快適な職場環境の形成のための措置」です。これには「作業環境の管理」(粉じん・臭気の防止のための空調設備の設置、騒音の防止のための遮音材の設置等)、「作業方法の改善」(身体への負担軽減等)、「労働者の心身の疲労の回復を図るための施設・設備の設置・整備を図ること」(休憩室・シャワー室の設置等)、「その他の施設・設備の維持管理」(掃除の実施等)が含まれます。

労働安全衛生法には健康診断の実施義務も

労働安全衛生法第66条に定められているとおり、事業者は労働者に対して医師による健康診断を実施しなくてはなりません。

なお義務づけられている健康診断には、「雇入時の健康診断」、「定期健康診断」、「特定業務従事者の健康診断」、「海外派遣労働者の健康診断」、「給食従業員の検便」があります。

2015年よりストレスチェック実施義務も



労働者のメンタル不調の未然防止を目的として、常時使用する労働者が50人以上の事業場には、2015年より年1回のストレスチェックと高ストレス者への面接の実施が義務づけられました。

なお、「常時使用する労働者」に含まれるのは正社員だけではありません。パートやアルバイト、派遣労働者などの非正規労働者も含まれます。もっとも、ストレスチェックの対象者は、契約期間が1年以上ある、もしくは既に1年以上働いているパート・アルバイト、1週間の所定労働時間が通常の労働者の4分の3以上であるパート・アルバイトであり、上記のいずれにもあてはまらないパート・アルバイト、派遣労働者は対象者には含まれません。

また、常時使用する労働者が50人未満の事業場でのストレスチェックは努力義務です。しかし実施が推奨されており、助成金制度もあります。

実際のストレスチェックの簡単な流れは下図のとおりです。

  • 1 実施者(医師、保健師等)によるストレスチェックを実施
  • 2 (実施者)ストレスチェックの結果を労働者に直接通知
  • 3 (実施者)面接指導の対象者への面接指導の申出の勧奨
  • 4 面接指導の対象者から事業者へ面接指導の申出
  • 5 事業者から医師へ面接指導実施の依頼
  • 6 医師による面接指導の実施
  • 7 医師から意見聴取
  • 8 必要に応じ就業上の措置の実施

引用:「ストレスチェックと面接指導の実施に係る流れ|厚生労働省」

細かな法改正に注意を

労働安全衛生法は時代に合わせて改正されており、2019年、2020年にも一部改正されています。

2019年は「長時間労働」の是正に向けた取り組みの一環として改正されました。2020年にも労働安全衛生規則の一部を改正する省令が施行されています。

労働安全衛生法は細かく改正されることがあるため、注意が必要です。


◇2019年の改正ポイント
● 労働時間の把握(第66条の8の3)
労働時間の状況の把握を法律として明文化し、以下の通り定めています。(一部抜粋)

事業者は、第六十六条の八第一項又は前条第一項の規定による面接指導を実施するため、厚生労働省令で定める方法により、労働者(次条第一項に規定する者を除く。)の労働時間の状況を把握しなければならない。
具体的には、タイムカードによる記録やパソコンの使用記録など、客観的な方法で労働時間を把握したうえで、労働時間の状況の記録を3年間保存しなくてはなりません。

● 医師による面接指導
長時間労働が原因で健康リスクが高まった労働者を見逃さないため、医師による面接指導が法改正で強化されました。おもな改正点は以下の4点です。

改正点 改正内容
医師による面接指導の対象となる労働者の要件 「週の実労働時間が40時間を超えた時間が、1月当たり80時間を超えている」、「疲労の蓄積が認められる」「当該労働者から申し出がある」場合、医師による面接指導を実施する
労働時間に関する情報の通知 「週の実労働時間が40時間を超えた時間が、1月当たり80時間を超えた」労働者に対し、事業者が超えた時間に関する情報の通知をする
研究開発業務従事労働者への面接指導 「週の実労働時間が40時間を超えた時間が、1月当たり100時間を超えている」研究開発業務従事労働者に対し、本人の申し出なしに、医師による面接指導を実施する
高度プロフェッショナル制度対象者への面接指導 「高度プロフェッショナル制度の対象者で、健康管理時間(事業場内にいた及び事業場外において労働した時間)が省令で定める時間を超える者」に対して、医師による面接指導を実施する

出典:改正労働安全衛生法のポイント|東京労働局

● 産業医・産業保健機能の強化(第13条)
産業医がより効果的に活動を行なうことのできる環境を整備するため、産業医の在り方が見直されました。具体的には以下のような規定があります。
・事業者は、労働者の健康管理に必要な情報を産業医に提供する
・産業医が必要と判断した場合、労働者の健康管理について事業者に勧告することができる
・事業者は、産業医からの勧告を受けたときに、その内容を衛生委員会または安全衛生委員会に報告する

● 法令等の周知の方法等(第101条第2項)
労働安全衛生法の第101条第2項に、産業医の業務内容や健康相談の方法などを常時見やすい場所に掲示し、周知するよう定められています。

● 心身の状態に関する情報の取り扱い(第104条)
あくまで労働者の健康確保に必要な範囲でのみ、「労働者の心身の状態に関する情報」を収集・保管・使用できると定められています。


◇2020年の改正ポイント
● 労働安全衛生規則等の一部を改正する省令
化学物質取扱業務従事者などの健診項目の見直し(2020年7月1日施行)

● 労働安全衛生規則及び電離放射線障害防止規則の一部を改正する省令
関連する法律(原子力規制法)の改正にともない、労働安全衛生規則の内容を一部変更(2020年4月1日施行)

● 粉じん障害防止規則及び労働安全衛生規則の一部を改正する省令
労働安全衛生法の規定に基づき、労働安全衛生規則の一部を改正(2020年4月1日施行、一部2021年4月1日施行)

快適な職場環境を実現する、クリーンエア・スカンジナビアの空気清浄機と分煙機

労働安全衛生法第7章の2には、努力義務として「快適な職場環境の形成のための措置」が明記されており、そのなかには空調設備の設置も含まれています。

そこで活躍するのが、クリーンエア・スカンジナビアの空気清浄機「QleanAir FS 70」と分煙機です。


◇クリーンエア・スカンジナビアのQleanAir FS 70
「QleanAir FS 70」は、製造業・倉庫・物流など、室内空気の品質管理が必要な事業所向けに開発された空気清浄機です。複数のフィルターを組み合わせることで粉じんを捕集し、空気を浄化、循環させます。

汚染物質や有害な粉じんも効果的に捕集・除去することができ、高度な空気浄化が必要な病院にも適しているほどです。さらに、浮遊粉じんの多い環境や臭いやガス成分の捕集が必要な場所にも対応できます。

QleanAir FS 70


◇クリーンエア・スカンジナビアの分煙機(喫煙ブース)
「職場における労働者の安全と健康の確保」および「快適な職場環境の形成促進」を目的としている労働安全衛生法では、受動喫煙防止の対策も必要です。

クリーンエア・スカンジナビアの分煙機は、100Vの電源がある屋内であればどこにでも設置が可能なため、大がかりな工事をすることなく受動喫煙防止の対策ができます。

クリーンエア・スカンジナビアの分煙機は、捕集が困難とされているタバコ粒子をほぼ100%捕集可能です。さらに、タバコの煙のガス成分もほぼ100%除去することができます。煙と臭いを完全に除去することが可能なので、喫煙者も非喫煙者も同じ空間で快適に過ごせるでしょう。

また厚生労働省が定める「脱煙機能付き喫煙ブース」の技術的基準にも対応しているため、安心して利用できます。分煙機導入後もスタッフが定期的なメンテナンスにうかがうので、快適な空気環境を維持することが可能です。

分煙機(キャビンソリューション)

まとめ

「職場における労働者の安全と健康の確保」や「快適な職場環境の形成促進」を目的としている労働安全衛生法には、事業者が果たすべきあらゆる責務・義務が明記されています。さらに、時代に合わせて細やかな改正が行なわれているため、常に最新の情報を把握しておかなくてはなりません。
2015年の改正では受動喫煙対策も事業者の努力義務となりました。そのため、事業場内の空気をきれいに保ち、喫煙者と非喫煙者がお互いに気持ち良く働ける環境を整えることが大切です。

クリーンエア・スカンジナビアでは、空気清浄機「QleanAir FS 70」や分煙機など、快適な職場環境を整備・維持できる商品を多数取り揃えております。職場環境を整えて、労働者の安全と健康を確保したいとお考えの方は、ぜひ一度お問い合わせください。

監修者情報

お名前:新留 治

▼プロフィール
1989年生まれ、大阪府出身。
2013年に神戸大学法学部を卒業。
その後、2015年に神戸大学法科大学院を修了した後、同年に司法試験に合格。
弁護士法人マーキュリー・ジェネラルにて、個人案件から上場企業間のM&A、法人破産、顧問先企業の日常的な相談業務に至るまで幅広い案件を担当。
2021年3月弁護士法人フォーカスクライドに加入。