廃材が独自のプロダクトに生まれ変わる。株式会社モンドデザインにインタビュー
クリーンエア・スカンジナビアは、SDGsに関する取り組みとして、サステイナブル・カンパニーを目指しています。持続可能な発展への貢献。環境負荷削減のための責任ある行動。そして自社のバリューチェーンにおいて人々へのポジティブな効果を高めていくこと。
私たちクリーンエアでは、こうした活動に取り組んで参ります。今回は、同様にSDGsの取組みを行っている企業をインタビュー形式で紹介します。
株式会社モンドデザインは、廃材を活用した自社ブランド製品の企画・販売を行なう企業です。タイヤチューブから生まれた「SEAL(シール)」と、ビニール傘から生まれた「PLASTICITY(プラスティシティ)」の、2ブランドを展開している同社。
「PLASTICITY」が生まれた背景や製品へのこだわり、リサイクルプログラムなどについてお話を伺いました。
廃棄されるビニール傘を素材にして生み出す「PLASTICITY」
―本日はよろしくお願いします。まずは御社の沿革や事業内容を教えてください。
長谷川さん(以下、長谷川):弊社は2006年に代表の堀池が立ち上げ、現在2つのブランドを開発・展開しています。
1つは廃タイヤを再利用したバッグを販売する「SEAL(シール)」というブランドで、2007年からスタートしました。そして2020年から、もう1つのブランド「PLASTICITY(プラスティシティ)」の企画・販売を始めています。
PLASTICITYでは廃棄されたビニール傘を素材として活用し、自社製品の開発だけでなく、企業様からご依頼を受けて製品やオリジナル品の製作もしております。
―PLASTICITYのプロダクトには、どのような特徴があるのでしょうか?
長谷川:PLASTICITYでは駅や商業施設などで忘れ物として集まり、廃棄されるビニール傘を回収し、製品の素材として活用しています。現在はバッグをメインに販売し、財布などの小物類も一部展開しています。
ビニール傘のビニール部分を素材にするのですが、そのままの状態では薄く、破れやすいです。弊社ではビニール素材を重ねて熱を加えて圧着し、独自素材である「GLASS RAIN(グラスレイン)」へ加工して製品に使用しています。
リサイクルでは粉砕して新しい素材を作る方法が主流だと思います。一方で弊社のPLASTICITYではそのままの形に付加価値を与えて再利用する、アップサイクルの形をとっています。素材が持つ元々の特徴を活かしながら製品化できるため、防水性や手入れのしやすさなど、ビニール傘の良いところがそのまま残っている点が弊社のプロダクトの特徴です。
―PLASTICITYのコンセプトがとても印象的でした。どのような想いが込められているのでしょうか?
長谷川:PLASTICITYは「10年後になくなるべきブランド」というコンセプトを掲げています。ブランドを立ち上げたクリエイターのAkiさんが、道端に放置されたビニール傘を目にしたことをきっかけにPLASTICITYが生まれました。
プラスティックゴミの問題を抱える現状に焦点を当て、この環境問題が10年後には解決されているべきという想いを込めて「10年後になくなるべきブランド」と名づけられました。もう少し踏み込むと、廃棄されるビニール傘の素材が、10年後には手に入らない状態になって欲しいという想いが込められています。
それは、ビニール傘そのものがなくなって欲しいという意味ではありません。
捨てられるビニール傘があるから、回収して弊社製品にしているのが現在のルートです。そうではなく、ビニール傘を作っている会社が使われたあとは回収する、あるいは廃棄されてもリサイクルされるようなビニール傘のリサイクルルートが出来れば、弊社が使う素材がなくなります。
そういったことが当たり前になるように、という想いを込めたブランドコンセプトです。
―PLASTICITYが生まれたきっかけを教えてください。
長谷川:クリエイターのAkiさんが、何を素材に使うか考えていたところ、ビニール傘の廃棄問題をニュースで見かけたそうです。その後、実際に道端に廃棄されたビニール傘の光景を目にしたことをきっかけにブランドが誕生しました。
彼女自身、イギリスの大学に通われていたため環境への意識が高く、廃棄されるものが素材に変わったら面白いなと思ったそうです。
Akiさんは手作業でアイロンを使って「GLASS RAIN」の素材を作られていたのですが、これをどのように再現するかとても苦戦しました。そして、いろいろな実験を重ねた結果、現在の加工方法に繋がりました。
―プロダクトのデザイン面で、こだわっている点はありますか?
長谷川:まず、長く使えるものという点にこだわっています。弊社ブランドの方向性としては、長くずっと使えるもの、飽きのこないデザインであることが大事です。PLASTICITYの製品は、クリア素材ですがキルティングやカラーモデルなどのパターンがあり、季節を問わず年中使えて飽きないデザインを意識しています。
また、内装の生地やレザーには再生素材を使うようにしている点も、デザインのこだわりです。リサイクル素材の中には日本で出回っていないものもありますが、なるべく新しい素材は使わずにバッグのデザインに使用しています。
ユニークな表情を見せる独自素材「GLASS RAIN」
―PLASTICITYには独自素材「GLASS RAIN」を使われているそうですね。どのような素材なのでしょうか?
長谷川:「GLASS RAIN」はAkiさんが名付けた独自素材で、ビニール傘のビニール部分を加熱・圧着して4層にして作ります。
重ねてプレスすることで、窓ガラスに流れる雨のような雰囲気が出ることから、この名称が付けられました。
―GLASS RAINの製造工程についても教えてください。
長谷川:製造工程としては、まず弊社で廃棄されるビニール傘を回収します。回収時は傘丸ごと1本の状態ですので、埼玉県にある工場にて骨組みとビニール部分に分ける解体作業を行ないます。
不要な骨組み部分は鉄のリサイクルルートに回し、ビニール部分だけを剥がして綺麗にしていますが、この工程は手作業です。
洗浄したあと、傘の大きさや色味ごとに仕分けて、プレス作業に入ります。プレス作業は栃木県の工場で行っており、傘2本分を4層にプレスし、扇型のGLASS RAINが1枚出来上がります。
ビニール傘の形のまま加工して作るため、製品の大きさ・形は制限されます。大きな製品を作るのは難しいですし、縫製加工も考えなくてはいけません。製品化できるかは、作ってみなければ分らない部分もあります。
小物類なら1枚のGLASS RAINでも作れますが、PLASTICITYのアイコンになっているトートバッグラージを1つ作るには2枚ほど必要です。
素材になるビニール傘の回収は個人からも受付ける
―製品を作るためのビニール傘はどのように入手しているのでしょうか?
長谷川:ビニール傘の収集は特定の回収業者や地方自治体だけでなく、いくつかのルートがあります。不要なビニール傘が多く出る時期も場所によって不定期に変わるので、複数の回収業者や地方自治体に協力いただいている状況です。
だいたい1回の回収で2,000~3,000本集めていますが、タイミングによってはそれ以上集まることもあります。
―ビニール傘の入手方法を考えるのも重要だったのですね。
長谷川:そうですね。捨てられたビニール傘が最終的にどのように処分されるか、業者や自治体ごとに違いがあります。地域によっては、自治体の回収では集められない場所もあるようです。
最初はどのようにして回収ルートを作るかが課題であり、大変苦労しました。今ではリサイクルプログラムで個人の方からの回収も増えており、年間回収量の2~3割程度が個人の方からの回収です。
―PLASTICITYで取り組まれているリサイクルプログラムについて教えてください。
長谷川:このリサイクルプログラムは、PLASTICITYを立ち上げて2年ぐらいにスタートした取り組みです。
廃棄されたビニール傘が製品の素材になっていると知ったお客様から「自宅で余っているビニール傘も回収していませんか?」と、お問合せをいただいたことをきっかけに始めました。
弊社でも個人の方から回収できれば、身近にリサイクルに取り組んでいただけると感じ、他社で同様の取り組みをしている様子もないようでしたので、始めた次第です。
リサイクルプログラムの流れとしては、お客様の方でビニール傘を解体していただき、ビニール部分のみを送っていただきます。ただ、商品化する素材を無料でいただくことは、法律上できません。
何らかの形で買い取らなければならず、最初はポイント還元という方法をとりました。送っていただいた方に、PLASTICITYのオンラインストアで使える100円分のポイントを還元しています。また、2023年からはポイント還元だけでなく、寄付という形も選択できるようになりました。
ポイント還元では、製品を購入しないと利益を受け取れません。それに、ビニール傘の回収を検索してPLASTICITYのサイトにたどり着かれた方は、弊社製品を購入するより、回収してリサイクルに回すことに意味を感じているのではと考えました。
そこで、1枚70円で買い取り、その金額をNPO法人グリーンバードへ寄付するという方法を追加しました。グリーンバードは全国でゴミ拾い活動をされている団体です。
SDGsな取り組みとデザイン性の両立を評価される
―PLASTICITYの製品を購入された方やパートナー企業、外部からの反響はいかがでしょうか?
長谷川:購入いただいているのは主に環境に対する意識の高い女性で、プロダクトのストーリー性や背景に共感された方が多いです。とはいえ、バッグは毎日身につけて使うものですし、デザインが好みでないと購入に至らないでしょう。
そのなかでPLASTICITYの製品は「すごく都会的」「スタイリッシュでかっこいい」と言ってくださるお客様が多く、共感できてデザインも気に入っていただけているようです。
また、リサイクル素材であるため、表面の柄には個体差があります。クリア素材だけれど模様が入った、少し変わった素材ということもあって、バッグを使っていると「これは何でできているの?」といった話題が日常の中で出てくるそうです。
そういった会話をきっかけに、家族や友人に素材のことやブランドの取り組みを伝える機会にもなったという声も、購入後のお客様から多く寄せられています。
他社からの反響としては、一緒に取り組みができないかとお声がけいただくこともありますが、デザインや素材感に驚かれる方が多いです。「元はビニール傘なのに、固めの素材になるんですね」「元がビニール傘には見えないですね」とよく言われます。バッグ以外でも使えないか、こういったことができないかといった相談も、メディアを通じた反響として多い印象です。
さらに、ここ1年ほどは企業や学校などの団体から「捨てられたビニール傘の処分に困っているので回収してもらえませんか?」というお声がけをいただく機会が増えました。
弊社のリサイクルプログラムからブランドを知っていただく流れも多く、団体からは100枚単位でビニール傘のビニール部分が届くこともあります。ビニール傘の処分に困っておられる方がたくさんいらっしゃったのだと実感しています。
製品をきっかけに環境問題を感じてもらえるように
―2007年から環境にやさしいモノづくりを手がけている御社ですが、世の中の環境への意識について変化を感じることはありますか?
長谷川:SEALもPLASTICITYも、製品を見て「格好いい」「可愛い」と思って下さった方が、環境に優しい素材で作られていると気付いてもらえるよう意識してきました。
SEALを立ち上げた2007年頃はまだ、世の中に環境への意識が今ほど広まっていなかったと思います。そのようななかでも、製品が良いと思って購入して下さった方が多くいらっしゃいました。
現在もデザイン面をきっかけに気に入って購入いただく方もいますが、環境に優しい素材だという点で選んでいただく方も増えていると感じます。
―今後、注力されることや新たな計画がありましたらお聞かせください。
長谷川:GLASS RAINは防水性やメンテナンスのしやすさ、そして環境に配慮した素材です。環境問題を解決する可能性のある素材ですので、今後は活用方法を広げていければと考えています。
アウトドア製品などと相性が良いと思いますし、最近では屋外広告の垂れ幕に使っていただいた事例もありました。企業様からのリクエストで実験的に製作中のものもあります。
―SDGsや環境問題に関心のある方へメッセージがあればお願いします。
長谷川:PLASTICITYでは、ビニール傘を再利用した製品を作っています。製品を購入いただけるのも嬉しいですが、ブランドを応援し、商品を通じて作られた背景を知っていただくことも大切です。
ビニール傘を再利用する取り組みには、たくさんの傘が捨てられているという背景があります。弊社製品を通じて環境や社会の問題を感じていただければ嬉しいです。
購入をきっかけに周りの方にもブランドを知っていただければ、そこにも意味があると感じています。
―本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。
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