心地よい眠りと、地球のために。循環する寝具づくりを担う株式会社イワタにインタビュー

心地よい眠りと、地球のために。循環する寝具づくりを担う株式会社イワタにインタビュー

クリーンエア・スカンジナビアは、SDGsに関する取り組みとして、サステイナブル・カンパニーを目指しています。

持続可能な発展への貢献。環境負荷削減のための責任ある行動。そして自社のバリューチェーンにおいて人々へのポジティブな効果を高めていくこと。私たちクリーンエアでは、こうした活動に取り組んで参ります。

この記事では、同様にSDGsの取り組みを行っている企業をインタビュー形式で紹介します。

京都市に本社を構える株式会社イワタは、1830年創業の老舗寝具企業です。同社は自然素材を使い、快適な睡眠を実現する寝具を製造・販売しており、サーキュラーデザインの考え方に基づいて製品の長寿命化と資源の循環利用を重視しています。

今回は株式会社イワタ代表取締役社長、岩田有史(いわた ありちか)さんに、同社のパーパスや自然素材の特長、循環するものづくりにかける想いを伺いました。

人にも環境にもやさしい、自然素材が中心の寝具づくり


キャメル、ヤクなど高級天然毛を贅沢に使用した高機能マットレス・ラークオール®


―本日はよろしくお願いします。まず、御社の事業について教えてください。

当社は寝具の製造・卸売、直営店での直接販売を行う会社です。自社製品として掛け布団、マットレス、枕、敷布団、シーツ、快眠を助けるサポートグッズを滋賀県の工場で製造しており、ベッドフレームは外部の協力工場にOEMで生産を委託しています。

寝具業界は、一般的に布団を扱う企業とベッドを扱う企業に分かれるのですが、当社は掛け布団、敷き布団、ベッドマットレスなど全て、和洋問わず寝具全般を取りそろえている会社です。


―御社のWebサイトには「自然素材の国産オーダー寝具」にこだわりを持っていらっしゃると記載されています。詳しくお聞かせいただけますでしょうか。

自然素材を中心に使用し、自然素材でカバーできない部分は再生しやすい材料を使うことで、寝具の長寿命化と資源の循環利用を目指しています。

掛け布団の素材は羽毛中心で、敷布団はキャメル(ラクダ)やヤクの毛、馬の尻尾・たてがみなどです。芯材にはコイルを使わず、特殊なポリエステルの芯材を開発しました。

スプリングマットレスは耐用年数に達すると廃棄されるのが一般的ですが、当社は商品全体に関して「サーキュラーデザイン」を推進しているため、マットレスも仕立て直しが可能です。


―自然素材を中心とすることで、人にも環境にもやさしい寝具づくりができるのですね。キャメルやヤクの毛は、どのようにして採用に至ったのでしょうか。

掛け布団と敷布団・マットレスの空間、寝る人周りの小さな空間を「寝床(しんしょう)内気候」と呼ぶのですが、この空間の温度と湿度を快適にすることが、質の良い眠りに直結すると考えています。

掛け布団の素材は羽毛が良いと分かっていましたが、敷布団・マットレスの素材がなかなか見つからず、研究を重ねるうち、吸収性と放湿性が高いキャメルやヤクの毛にたどり着いたのです。

夏の不眠の原因の一つは背中の湿度上昇だということをご存知でしょうか。背中が蒸れると寝返りが増えてしまって眠れず、不要な寝返りが増えると深く眠れなくなります。

しかし、キャメルは湿度を放散するスピードがとくに速いので、この素材を使うと背中が蒸れにくくなるということが明らかになっているのです。


―蒸れが不眠につながる理由がよく分かりました。キャメルやヤクは個体数があまり多くないイメージがありますが、材料調達の面では問題ないのでしょうか。

たしかに、これらの毛は天然素材の中で希少性の高い材料です。中近東にもキャメルはいますが、実はモンゴル南部とゴビ周辺に生息しているキャメルしか毛が伸びません。

ゴビ近辺の冬はマイナス30度以下になるため、彼らの体毛は体を守るために体毛が伸びますが、夏には自然と脱毛します。その毛を遊牧民の方々が集めてくださり、私たちが調達しています。

希少な素材ではありますが、寝具を作るための量としては問題なく確保できている状況です。

生産の全工程でサーキュラーデザインを推進




―御社は、サーキュラーデザインの考え方にもとづいてSDGsへのアプローチをされています。具体的なお取り組み内容をご紹介ください。

まず、地球温暖化の原因とされる温室効果ガス削減のため、再生可能エネルギーの使用を推進しています。

京都の本社と店舗、滋賀工場では、みんな電力株式会社様の再エネ100%プランの電力を調達しており、百貨店やホテルの中の店舗では、京都府のオフセット制度を活用した共同購入プロジェクトに参加して、全社で100%再エネ電力を調達しています。

また、先ほどご紹介した自然素材を使っている点も、サーキュラーデザインの一環です。

かつては、婚礼の際に女性が布団を仕立てて嫁入りするという習慣があり、仕立て直しをしながら長く使われていくものでしたし、当社も循環する自然素材で寝具をつくってきました。

しかし、海外の化学製品を輸入して販売するというビジネスが主流になり、布団が使い捨てされる時代になってしまったと感じています。実際に、東京23区の家庭から出る粗大ごみ量のトップは布団です。

コロナ禍が訪れた際、今一度足元を見つめ直そうということで、新たにパーパス「自然との調和を眠りから実現する」を制定しました。

このパーパスには2つの意味があります。ひとつは「自然のリズムと体のリズムが同調した睡眠がとれる寝具を作りたい」という想い、もうひとつは「自然の限界の範囲内で生産しよう」という想いです。

自然のリズムともの作りのリズムを合わせていくことを目指しており、「天人合一(てんじんごういつ)」という考え方がベースになっています。


―自然のリズムと合わせるというのは、例えば材料の調達にも当てはまるのでしょうか。

そうですね。例えば年に一度とれるラクダの毛をうまく寝具に活用すると、仕立て直しをしながら20年~30年使用できます。一年で伸びた動物の毛が数十年も使えるとなれば、自然のサイクルに同調したものづくりだといえるでしょう。

また、当社は日本の木でベッドを作るプロジェクトも推進中です。世界では森林の減少が止まらない一方、日本の人工林は植林後30~50年を経て収穫期を迎えています。

私たちが作っているのは、岡山県の孟宗竹を小さく割って積層合板という材料にしたベッドです。竹は放置竹林が問題になっていますが、成長が早いため、3~5年で木材として活用できます。

木材は数少ない再生可能な資源ですので、大切に使えば、木の成長の範囲内で利用することができます。

お手入れをサポートする製品タグやアップサイクルタオルも



―サーキュラーデザインを推進される上で、他にどのような取り組みをされていますか?

ご家庭でのメンテナンスを通じて寝具を長寿命化するために、当社の製品タグにはQRコードを付けています。

QRコードをスマートフォンのカメラで読み取ると、日干し・水洗いの方法など、メンテナンスのガイドが表示される仕組みです。

いくらサーキュラーデザインといっても、早く・たくさん循環するより、ゆっくり循環させて同じ製品をできるだけ長く使っていただくほうが使用エネルギー削減への近道になります。

購入いただいたお客様のご協力のもと、できるだけ長く快適に使っていただけたらと考えています。

また、生地を裁断する過程で出る端切れをアップサイクルして、新製品としてタオルを開発しました。

溜まった端切れをほぐして糸状に綿状にして、新しいコットンを少し足して糸を引いています。この糸を用いて、今治基準のタオルを作るというプロジェクトです。入浴後にこのタオルをお使いいただき、心地よい眠りへと意識をつなげていただけたらとも考えております。

さらに、キャメルなど動物性のクズ毛を堆肥工場に無償提供して、有機肥料として再資源化するプログラムも展開しています。生物圏から得たものを生物圏に戻す、良い取り組みができていると思います。

できることを積み重ね、寝具を使い捨てしない世の中をつくりたい


寝具御誂専門店・東京店


―御社のサーキュラーデザイン推進のお取り組みは、全国的にも評価されているそうですね。

一般社団法人 地球温暖化防止全国ネット開催の、脱炭素社会につながる活動を実践している団体が集う「脱炭層チャレンジカップ2024」にて、当社は「再エネ100宣言 RE Action賞」に選出されました。以前はあまりなかったSDGs関連の取材も、この数年で非常に増えています。


―SDGsに対するアプローチについて、御社の今後の展望をお聞かせください。

粗大ごみのトップが寝具だという状況を変えたいと考えています。ファストファッションと同じように、寝具が使い捨てになってしまっているということを広く周知して、長く大切に使っていただける世の中にしていきたいですね。

衣類や寝具等の繊維製品は、CO2の排出量が石油産業に次いで2位といわれているのをご存知でしょうか。フランスでは、アパレル製品の売れ残りを焼却処分することを禁じた衣類廃棄禁止法が2022年に施行されました。売れ残った衣類は、メーカーがリサイクルや寄附によって、全て循環させなくてはいけないという法律です。

生地の染色過程で多量の水を使うことも、繊維業界の課題です。当社が無染色・無漂白の「unbleached(アンブリーチド)」という寝具シリーズをつくり、京都市と協力して、生産工程でどのくらいのCO2が削減できるかを調べたところ、従来の布団と比べて42%ものCO2を削減できたことが分かりました。

今後も人と環境の未来のため、私たちができることを考えながら、心地よい眠りをもたらす寝具を作っていきたいと思います。


―SDGsへのアプローチに注力しようとされている企業の皆さまへ、メッセージをお願いします。

当社のような中小企業は、急に大きな取り組みを実現することはできません。しかし、少しずつ積み重ねていくことで、最後には仕組みができるのだと思います。

最終的に目指す形をイメージしながらも、遠いところに手を伸ばしすぎず、できるところから始めていけば、少しずつ変わっていくのではないでしょうか。取り組み自体の持続可能性も大切だと考えています。


―本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。