美と健康のプロフェッショナルとともに、豊かな地球を守る。タカラベルモント株式会社にインタビュー

美と健康のプロフェッショナルとともに、豊かな地球を守る。タカラベルモント株式会社にインタビュー

クリーンエア・スカンジナビアは、SDGsに関する取り組みとして、サステイナブル・カンパニーを目指しています。

持続可能な発展への貢献。環境負荷削減のための責任ある行動。そして自社のバリューチェーンにおいて人々へのポジティブな効果を高めていくこと。私たちクリーンエアでは、こうした活動に取り組んで参ります。

この記事では、同様にSDGsの取り組みを行っている企業をインタビュー形式で紹介します。

タカラベルモント株式会社は、理美容室の設備機器、サロン専売品の化粧品、医療用設備機器などを扱うグローバルな老舗企業です。

水資源の保護意識が高い滋賀県に工場のひとつがあり、サステナビリティ向上への意識がもともと高かった同社ですが、2023年に改めて「サステナビリティポリシー」を策定し、翌年に社内横断のサステナビリティ推進プロジェクトを発足しました。

今回は、美と健康をつくるプロフェッショナルを支える同社がどのような取り組みをしているのか、サステナビリティ推進プロジェクトのリーダーを務める開発本部インキュベーションラボ・マネージャーの中山 健太郎(なかやま けんたろう)さんと、経営管理室の日野翔人(ひの しょうと)さんにお話を伺いました。

理美容・医療業界を支えるタカラベルモント株式会社




―本日はよろしくお願いします。まず、御社の事業内容を教えてください。

日野さん:当社は理美容事業、化粧品事業、デンタル事業、メディカル事業を展開する会社です。2021年に創業100周年を迎えるにあたり「美しい人生を、かなえよう。」というパーパスを定めました。

現在13ヵ国・地域に現地法人や事務所があり、120を超える国・地域で取引実績があります。

理美容事業では、理美容室の設備機器、シャンプー・ヘアカラー剤・パーマ剤などのサロン専売化粧品を開発・提供しています。また、機器のメンテナンス、空間設計、メニュー提案、スキルアップなど、サロンの開業や経営も生涯に渡ってサポートしているのが特徴です。

デンタル事業で扱うのは、歯科医院で患者さんが座る椅子や歯科医師が使用する操作台などです。メディカル事業では、産婦人科医院を中心に、手術台や検診台、分娩台といった医療設備・機器を開発・製造しています。また、理美容事業と同じように機器のメンテナンス、空間設計、クリニックの開業支援などのサポートも行っています。


―非常に幅広く製品を製造されているのですね。

機器の開発から製造まで自社や関係会社の工場で行っています。特に医療機器は、使用する医師によって機器の形状などに関するカスタマイズのご要望が多いため、多品種・少量生産で、手作業で製造している部分も多いことが特徴です。

また、機器や化粧品の研究開発も行っています。例えば診療台なら寝転がった際に首に負担がかからないようにするにはといった人間工学の視点、化粧品の場合は新しいシーズの探索を行い、基礎研究から製品開発に至る応用研究まで進めています。

実は「ヘッドスパ」というサロン技術が生まれたきっかけは、当社が開発したシャンプー台「YUME」シリーズでした。歯科業界でも医師と患者様、付き添いの方とで3者のコミュニケーションができるような治療ユニット「ラポール」を提供しています。

産婦人科で使う診察用の椅子も、電動でゆっくり回転・上昇・傾斜し、診察姿勢になる検診台を日本で初めて発売しました。患者様の心理的負担を軽減する画期的な提案として、現在は業界のスタンダードとなっています。

中山さん:私はインキュベーションラボという部門でマネージャーをしているのですが、開発に携わった次世代型スマートデバイスミラー「ECILA(エシラ)」もサロンでスタイリストとお客様に活用いただいています。ヘアスタイルの画像やAIによる診断結果、おすすめスタイルなどを鏡に表示できる製品です。

事業を通じて持続可能な社会づくりをするため、サステナビリティポリシーを策定




―貴社では「ものづくり企業」として、持続可能な社会を目指したお取り組みを開始されています。詳しくお聞かせいただけますでしょうか。

日野さん:当社は、「サステナビリティポリシー」を2023年8月に発表しました。

サステナビリティポリシー策定の背景は2つあり、ひとつは当社が機器と化粧品の工場をそれぞれ所有していることです。

工場は大阪府と滋賀県にあり、滋賀県にある化粧品工場は琵琶湖に近い湖南工業団地に所在しています。

琵琶湖が近いため排水の水質基準が非常に厳しく、当社では以前から微生物を用いた廃液の処理方法を導入したり、廃棄物を減らしたりする取り組みを通じて、資源の循環を目指してきました。

こうした環境にあるため、以前からサステナビリティに関する課題意識を持っていた企業だと思います。

もうひとつの背景は、当社の企業風土です。30年ほど前から「環境経営理念」を掲げており、人にも環境にも配慮した製品を提供することが当たり前のような風土となっています。

例えば、後ほど詳しくご紹介する廃材のアップサイクルプロジェクトは、工場で廃材を多く目にする従業員からの声で始まり、今ではタカラベルモントを象徴するようなプロジェクトになりました。

このように社員一人ひとりの環境に対する意識が高いことも、サステナビリティポリシー策定の動きにつながっています。


―もともとサステナビリティに対する課題意識がある中、さらにサステナビリティポリシー策定をされたのは、なぜだったのでしょうか。

日野さん:今後は企業のサステナビリティ推進が当たり前になっていきますので、サステナビリティ向上を単体で考えるのではなく、ビジネスとイコールで考え、事業活動に落とし込んでいくことが必要です。

そのためには、各活動をなぜ当社がやるのか、その指針があれば従業員の納得度もさらに高まると考えました。

当社のサステナビリティポリシーのスローガンは『人と地球の「らしさ」輝く社会をつくる。』というものです。

このテーマを軸に、ESG情報開示基準のひとつであるSASB(サスビー)スタンダード、GRIスタンダードなどを参考に重要テーマを設定しました。それが5つの領域と6つのマテリアリティ(重要課題)です。

経営管理室が中心となって進めたこの活動では、従業員と経営層へのヒアリングを特に重視しました。現場で働く従業員がこのテーマを見たときにどう思うか、本当にタカラベルモントで取り組む意味があるかどうかを丁寧にヒアリングしたのです。

また、当社では2年に一度、外部機関を通じて社内・社外のブランド調査を行っています。その調査設計を2022年だけ変えてサステナビリティに対する意識調査をしたところ、サステナビリティに対する従業員の意識が他社と比べて非常に高いことが分かりました。

その一人ひとりの関心領域、課題意識を反映させたことも、サステナビリティポリシーの特徴となっています。

とくにスローガンとステートメントは長い期間をかけて検討しました。タカラベルモントらしさを大切に、私たちのパーパス「美しい人生を、かなえよう」とリンクするよう、非常にこだわって考えた文章です。



パーパスを大切にするということは、私たちの目の前にいるお客様、美と健康をつくるプロフェッショナルである理美容師の方や医療従事者の皆様と、ともに取り組んでいくということを表します。


―従業員の方々の意識が高いというお話がありましたが、もともとサステナビリティに対する知見がある、あるいは推進する意識を持つ方が入社されているのでしょうか?

中山さん:社内の風土や仕事を通じて、意識が養われていく従業員が多いのではないかと思います。

日野さん:社内アンケートの結果でも、20代の従業員だけでなく、勤続年数が長い従業員も意識が高くなっているという結果が出ていました。

各事業部からメンバーを集めたサステナビリティ推進プロジェクト




―貴社で開始されたサステナビリティ推進プロジェクトについてお聞かせください。

中山さん:サステナビリティポリシー策定後に、各事業部門から10名のメンバーを集めて社内横断的なプロジェクトを立ち上げました。

活動の趣旨は、策定したマテリアリティを実際の事業活動を通じて体現するために、さらに「ターゲット」へと落とし込んでいくことです。

各事業部のメンバーがいかに自分ごと化するかが重要ですので、マテリアリティの内容を具体化・細分化して、まずどの領域に取り組むかを検討しています。


―プロジェクトメンバーはどのように決定されましたか?

日野さん:リーダーの中山を中心に、各事業部の適任と思われるメンバーで構成しました。中山はもともとサステナビリティに対して非常に意欲的に学んでいて、行動力もあると感じていたので、リーダーに適任だと感じて推薦しました。

中山さん:サステナビリティは新しいビジネスや会社の成長につながるものだという視点でいろいろと調べるうちに、日野とよく議論し、会社として軸を持とうという話をするようになりました。

アップサイクルプロジェクト『リボニス』は次世代の教育にも貢献




―貴社には、サステナビリティ推進プロジェクトを開始される前からのお取り組みもあるそうですね。ご紹介いただけますか?

日野さん:例えば、工場発のプロジェクトとして2021年6月から『アップサイクルプロジェクト Re:bonis(以下、リボニス)』を展開しています。

このプロジェクトの背景にあったのは、理美容椅子の製造過程でやむを得ず廃棄する合成皮革の端材が、年間約26トンも生じていたことです。

当社の理美容椅子はカラーバリエーションを含めて140種類以上あり、プログラミングによってできる限り効率よく裁断しています。それでも、強度が強く汚れにも強い高品質の合成皮革が日々廃棄されてしまう状況でした。

それを目の当たりにする工場勤務の従業員たちが「この端材に新しい価値を生み出せないか」と考え、始まったのがリボニスです。

中山さん:リボニスでは、大きく3つの活動をしています。1つ目は、「未来のものづくり人材への教育」です。教育業界の方々と一緒にワークショップを開催しています。

現代の子どもたちは、自分の手で何かを作る機会が少なくなっているといわれています。そこで、当社の合成皮革を使って「ものづくりって楽しい」と思えるような経験をしてほしいと考えました。

そうした経験が、将来、仕事について考えるときに「ものづくりの現場に行きたい」「メーカーに就職しよう」という気持ちにつながるかもしれません。

2024年10月にも、大阪のショールームで子ども向けワークショップを開催しました。形がさまざまな端材のレザーを使いますので、『ヘンテコ植物』をテーマに設定した、自由な発想でクリスマスオーナメントを作る企画です。

2日間で約150名の子どもたちが参加し、楽しみながらサステナビリティについて考え、ものづくりの面白さを体験してくれました。

2つ目は、「地域との協業」です。当社は大阪市西成区で創業し、現在も同地区に工場のひとつがあります。地域の皆さんやNPOの方々と一緒にサステナビリティを考えるためのツールとして、廃棄レザーを活用するイベントや展示を実施しています。

そして3つ目は、「アップサイクル活動」です。創業100周年を記念した従業員向けのサステナビリティグッズをはじめ、ノベルティグッズやオリジナルグッズを製作しています。


―貴社内だけで実施するのではなく、外部とつながった活動をされているのですね。

中山さん:サステナビリティ推進は、自社だけではなく、他社や地域の皆さんと一緒に取り組み、解決していく輪を作っていきたいと考えています。アップサイクルをすることによって経済性を高め、持続可能な活動にしていくことも重要ですね。

限りある資源を守るため、節水シャンプーを開発




―環境に配慮した製品も開発されたそうですね。どのような製品なのでしょうか。

日野さん:2021年10月から化粧品ブランド「LebeL(ルベル)」より「LebeL ONE(以下、ルベルワン)」というシャンプーを発売しています。

ルベルワンはとても泡切れが良く、洗髪後のすすぐ時間を短縮でき、約8.8%の節水効果が期待できるという製品です。

このシャンプーが生まれたのは、先ほどご紹介した滋賀工場でした。琵琶湖は高度経済成長期に工場排水・生活排水の問題があったため、この地域の皆さんは水資源の保護に対して非常に高い意識を持っています。

私たちも、琵琶湖は日本の環境保護活動の象徴的存在だと感じていますので、当社が生みだす化粧品も、環境への配慮を高める必要があると考えました。

日本は水資源の豊かな国ですが、世界にはそうではない国・地域が多数あります。地球全体のため、そして理美容産業の未来のためにも、この製品を世に送り出したことには意味があると感じています。

「サステナブルな社会」は、業界を超えて目指す共通目標




―貴社のサステナビリティ推進における、今後のご予定をお聞かせください。

中山さん:今期の利益や事業成果を追い求める必要もある中で、サステナビリティ推進という長期的な取り組みに対してどのようにリソースを割くかを検討しながら活動していく必要はあります。

現在は、各事業部の評価の仕組みも調整しながら、サステナビリティ推進へより前向きに取り組める土壌を構築しているところです。

サステナビリティ推進が、ボランタリーなものというよりも事業の中核に据える形で進めていけること、当社のビジネスの中で叶えていくことを目指したいですね。

そして、将来的には「サステナビリティを推進することが当たり前」の会社になっていけたらと思います。

日野さん:私たちのパートナーである理美容師や医療従事者の皆様とともに、業界の外も良くしていこうという意識でサステナビリティを推進することも今後の目標です。


―最後に、持続可能な社会づくりに関心のある方や企業の皆様に向けて、メッセージをお願いします。

中山さん:タカラベルモントの取り組みもまだまだこれからですが、当社のように上場されていない会社や、中小企業では、「何から始めたらいいだろう」と悩まれている場合が多いのではないかと思います。

でも、私たちがサステナビリティ推進を開始して知ったのは、サステナビリティの文脈だと、地域や他社の皆さんから厚くご協力をいただけるということです。

イベントやワークショップを開催する際などに、ご協力をお願いした方々から「サステナビリティのためなら喜んで協力します」とよく言っていただけます。

業界が違っても、最終的に目指すのは、より良い地球環境や本当に豊かな社会ですよね。ありたい姿、つくりたい世界が共通しているということは、さまざまな企業・団体が協力して取り組むときの大きな力になるのではないでしょうか。

日野さん:私たちも、試行錯誤を重ねながらサステナビリティ推進を続けていきますので、ぜひ一緒に活動の輪を広げていきましょう。


―本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。