自社開発のデジタルツールで脱炭素化に伴走。アークエルテクノロジーズ株式会社にインタビュー

自社開発のデジタルツールで脱炭素化に伴走。アークエルテクノロジーズ株式会社にインタビュー

クリーンエア・スカンジナビアは、SDGsに関する取り組みとして、サステイナブル・カンパニーを目指しています。

持続可能な発展への貢献。環境負荷削減のための責任ある行動。そして自社のバリューチェーンにおいて人々へのポジティブな効果を高めていくこと。私たちクリーンエアでは、こうした活動に取り組んで参ります。

この記事では、同様にSDGsの取り組みを行っている企業をインタビュー形式で紹介します。

福岡県福岡市と東京都港区に本社を構えるアークエルテクノロジーズ株式会社は、デジタルイノベーションを通じて脱炭素化社会実現に取り組んでいます。

2018年から活動している同社は、多数在籍する自社エンジニアによってソフトウェアを内製で開発していること、カーボンニュートラルの初期から実行まで企業に伴走していることが特徴です。

今回は、アークエルテクノロジーズ株式会社代表取締役CEOの宮脇 良二(みやわき りょうじ)さんに、カーボンニュートラル推進支援、同社製品の「AAKEL eCarbon」「AAKEL eFleet」について伺いました。

デジタルで気候変動対策に挑むアークエルテクノロジーズ株式会社




―本日はよろしくお願いします。はじめに、御社の事業内容をご紹介ください。

当社は「デジタルイノベーションで脱炭素化社会を実現する」というミッションを掲げて活動する会社です。2018年8月に設立し、福岡県と東京都に拠点を構えています。

主な事業はソフトウェア事業です。

この事業では、CO2排出量を減らすためのソフトウェアの開発・提供、カーボンニュートラル推進支援をしております。

当社ソフトウェア導入と併せて、CO2排出量の計測から実行支援までのコンサルティング、そしてお客様がグリーン分野で新規事業を立ち上げる際の支援をしております。


―御社の社名にある「AAKEL(アークエル)」には、どのような意味が込められていますか?

「アーク」は「船」を意味するオランダ語で、「エル」はエレクトリシティ、電気からとって組み合わせました。

私は長年エネルギー業界向けのコンサルティング業務に従事していたのですが、その頃の会社の上司がオランダ人で、私も創業前にオランダを訪れた際にこの社名を考えつきました。

オランダはサステナビリティ推進において先進的なことでよく知られています。そして、スタートアップを立ち上げるにあたり「船」から「出航」を連想しました。

起業という名の旅に出て、エネルギー分野で人と人、文化と文化をつなぐ船のように航海をしていきたいと考えたのが社名の由来です。

また、前職時代から縁があった九州も文化の交流点であり、当社と親和性が高いと感じました。本社を福岡にしたのは、「Fukuoka Growth Next(福岡グロースネクスト)」というスタートアップの施設が福岡市にあったからです。

築90年以上の小学校をリノベーションしたこの施設を見学したとき、学びをはじめる子どもたちのための場所だった空間が、新たに会社を始める私たちとつながりがあると感じて、本社を置くことに決めました。

排出量の煩雑な計測から実行まで、一気通貫で支援する




―カーボンニュートラル推進支援について、詳しくお聞かせください。

カーボンニュートラルのプロセスは、基本的に3ステップです。

まずは自社がどのぐらいCO2や温室効果ガスを排出しているかを計測する物差しを作ることが必要です。

その計測と可視化が第1ステップで、第2ステップは、計測された排出量をどのように減らすかを考える戦略立案のステップとなります。最後が、その計画に従って実行していく第3ステップです。

当社では、この3ステップを一気通貫で支援しております。

第1ステップである排出量の計測では、計測自体の支援、そして計測した結果の可視化を行います。

排出力を計測するには、電気料金・ガス料金の領収書や燃料調達の詳細など、複数のシステムや書類に残る記録から様々な情報を集める必要があり、計算方法も複雑なため、その煩雑な計測を当社がお客様のもとへ訪問しながら支援します。

そして、排出量の可視化に活用するのが、「GHG(温室効果ガス)排出量可視化・削減シミュレーションツール AAKEL eCarbon」というソフトウェアです。

また温室効果ガスを可視化するツールは世の中に数多くありますが、「AAKEL eCarbon」が他社製品と異なるのは、削減のための戦略を立てる第2ステップに向けてシミュレーションをする機能がある点です。

どのような方法を実行するとどのくらいCO2・温室効果ガスが減るのかをシミュレーションして、お客様への提示まで行います。

戦略を立てたうえで第3ステップに移り、再生可能エネルギーを使った電力に変える、高効率の機器に変えて電気の消費量を少なくするといった実装を進めていきます。

デジタルツールとコンサルティングサポートを組み合わせて、カーボンニュートラルの初期から実装まで一気通貫で支援するのが私たちの支援手法です。

自治体への支援を通じて、中小企業のカーボンニュートラルを推進




―「AAKEL eCarbon」の導入方法や提供先について教えてください。

「AAKEL eCarbon」の提供形態は2種類あり、ひとつはお客様に対して直接ご提供するというスタイルです。もうひとつは、AAKEL eCarbonにお客様のロゴを付けてご提供するというホワイトラベルの形態です。

ホワイトラベルでの導入は、金融機関やエネルギー会社で進んでおり、地域のお客様に対して、コンサルティングツールとしてご活用いただいています。

また、2024年12月現在で10の自治体におけるカーボンニュートラルを支援させていただいています。

全国で環境省と経産省を中心に中小企業のカーボンニュートラルを進める動きがあり、自治体に対して補助金が交付されていますので、実際のカーボンニュートラル推進を当社が受託しています。

例えば福岡市や京都府、神奈川県などが導入いただいている自治体です。

EV分野の課題は充電効率。自動で管理する「AAKEL eFleet」が好評




―御社では「EVスマート充電・運行管理システム AAKEL eFleet」も提供されています。こちらは、どのような製品なのでしょうか。

「AAKEL eFleet」は、バス会社やタクシー会社、運送会社、流通関連の会社など、複数の商用車で業務する企業様向けのサービスです。

EV自動車の導入は様々な企業や自治体などで始まっていますが、この分野には充電インフラや電力供給にまだ多くの課題があります。

例えば、EV車両をたくさん導入すると、多くの充電が必要になりますので、それまでの契約電力量を簡単に超え、コスト面の負担が増えてしまいます。

そこで、契約電力量を守ったうえで効率的にEV充電をしていくことが必要です。

そのために、充電する車両の数やタイミングのコントロールを行ったり、太陽光発電による電力をできるだけ使うようにしたりして、必要な電力を環境性・経済性が高い時間帯に充電するようスケジュールし、充電器を制御するのが「AAKEL eFleet」です。


―「AAKEL eFleet」を導入すると、充電するタイミングの通知が届くというイメージでしょうか。

通知も届きますが、そもそも「最適なタイミングに自動で充電される」というのがこの仕組みのいいところです。ただ充電器をEV車両につなぐだけで、「AAKEL eFleet」の計算結果によってはすぐに充電が始まり、あるいはすぐには始まらず、充電完了になっているべき時間までに最適なタイミングで充電が開始されます。


―人がEV車両の充電状況を管理しなくていいのですね。

EV車両が5台以上になると、人力での管理が煩雑になり、この課題を解決しないとEV自動車の導入が進みません。

企業の皆様が負担を感じないレベルまでシステムを成熟させることが、EV車両の普及につながると私たちは考えています。


―「AAKEL eFleet」を導入された企業様からは、どのような反響がありますか?

「自分たちが使う電気がCO2をどれくらい排出して発電したものなのか、初めて分かった」「EV充電にかかったコストが全体の電気料金の中のどのくらいなのか可視化できてよかった」などのお声をよくいただきます。

再生可能エネルギーの普及にはデジタルテクノロジーが必須




―クライメートテック企業の中で御社がどのような会社か、改めて教えてください。

当社は2018年から事業を始めており、エネルギー分野に関する専門性が高く、実績の蓄積もあることが大きな特徴だと思います。そのころから気候変動問題に焦点を当てていた会社は多くありません。

また、再生可能エネルギーの導入をしている会社は多数ありますが、当時から気候変動の課題自体を解決することを中心に据えて活動した会社も、非常に少なかったと思います。

ちなみに、再生可能エネルギーの導入量が増えてくると必ず起こるのは、「発電した電力が余ってしまう」という問題です。

電力が余ると出力抑制をする、つまり捨ててしまうことになるのですが、そうすると再生可能エネルギー発電者の収入が減ってしまうため、再生可能エネルギーの普及が進みません。

そのため、再生可能エネルギーの導入を増やすためには、この出力抑制の比率を下げることが必要です。当社が提供する「AAKEL eFleet」は、実はその効果も狙っており、余っている太陽光発電の電力をより効果的に使用することを目指しています。

ある天気からどの程度の再生可能エネルギーが得られるか、そのエネルギーをどの程度消費するかなど、多くの要素を計算し、コントロールするので、IoTやAIなど、様々なデジタルの仕組みは必須です。

そして、多くの会社が外部の企業に委託してデジタルツールを作っていますが、当社はすべて内製ですので、ソフトウェア開発におけるスピード感やコスト調整に柔軟性があります。

必然的に、当社のメンバーのうち半数以上は、デジタルツールを作るエンジニアです。デジタルの専門知識を持ち、ツールを直接お客様に提供しているクライメートテック企業は珍しいかと思います。

今後は戦略実行のステージへ。「デジタル活用で脱炭素」の輪を広げていく




―今後の展望をお聞かせください。

世の中のCO2・温室効果ガスの排出をできるだけ減らすこと、それをデジタルで進めることが経営の中心ですので、これまで提供してきたサービスを世の中にさらに普及させていくことを目指しています。

この1~2年、カーボンニュートラルの取り組みが企業の間で始まり、お客様のほとんどが、CO2・温室効果ガスの排出量削減に向けたロードマップを作るステージにいらっしゃいます。

今後は削減に向けた戦略の実行に進みますので、当社は自社開発のデジタルツールを使いながら、しっかり伴走していく予定です。


―カーボンニュートラルの推進に関心・課題を持たれている方へメッセージをお願いします。

気候変動問題は、長期目標を掲げて取り組む問題であり、世の中が一気に変わるようなソリューションはありません。

一人ひとりの行動様式や企業の取り組みを少しずつでも変えていかなくてはならない、非常に地道な積み重ねが必要な課題です。

一方で、1社の取り組みで解決できる問題でもありません。想いを同じくする皆さんと輪を広げていくことが重要ですので、当社の活動に賛同いただける企業様とはぜひコラボレーションをしたいですし、学生さんには仲間に加わっていただけたらと思います。


―本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。